耐性菌について2

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他国と日本の違い

日本は新しい薬が次々出て、それは価格も高く、製薬メーカーも医療機関も利益が上がるし、 なにしろいろいろな菌を叩けるということで、次々と新薬おひろめパーティが繰り広げられ、 偉い大学の先生が「この薬こそ最初に使うと安心です」と宣伝すれば、 説明を受けた医師はそれを現場でどんどん使います。 風邪は本来初期には抗生剤を使わなくて良いことも多いのですが、 患者さんに「私は休めません。先生、悪くなると困るからなんとかしてください」 と言われると、つい抗生剤を処方してしまいます。 まして、昨日おいしいごちそうを食べながら、偉い先生に良いと言われた新しい薬をつい使いたくなるものです。 決して利益の為だけでなく、患者さんに良しと思って処方してきたのですが、 この繰り返しが大量の耐性菌を世に送り出す結果となりました。

他の国もみんなそうかと思えば、ヨーロッパでは抗生剤の使用制限をしている国もあり、 スウェーデンは簡単に新しい薬が使えないしくみになっているそうです。 イギリスは今でもペニシリンを使う医師が多いようです。 オーストラリアは抗生剤の使用指針がありますが、決して風邪の初期に新しい系統の値段の高い薬を使うようにはなっていません。 その結果、スウェーデンやイギリスなどの国は日本より耐性菌の出現率が低くなっています。 スウェーデンは特に徹底しているので、日本の100分の1くらいしか耐性菌が出ないそうです。

同じヨーロッパでも多少事情は異なり、フランスはイギリスほどペニシリンを使わないので、 イギリスより耐性菌が多いようです。

他の国のデータを見れば、今の日本の抗生剤の使い方はその頻度においても、 その選択方法にしても、「耐性菌を増やす」傾向であることは間違いありません。

私の抗生剤の使い方

では、これからどのように抗生剤を使ったら良いのでしょうか。 あなたが医師になったつもりで考えてみましょう。

ある患者さんが喉が痛くてやってきました。 この患者さんには、次の5種類の菌が付いている可能性があります。 菌A 菌B 菌C 菌D 菌E

抗生剤の種類 菌A 菌B 菌C 菌D 菌E
(1)ペニシリン系抗生物質 × ×
(2)新しいセフェム系抗生物質 ×
(3)新しいニューキノロン系抗菌剤

さあ、あなたはどの薬を使いますか? 当然3)と考えますか? 私は1)を選択することが多いです。

なぜなら、DとEの菌は喉にはそれほど付かないこと。 そして、Aの菌が付いたときは(3)に比べて、むしろ良く効くことが多いこと。 そして、(1)を使うと(2)より「耐性菌」をその患者さんの中に作りにくいこと。 (3)は良さそうに思えるかもしれませんが、意外に効きが悪かったり、 副作用が多いということも、第1選択にしない理由です。 切り札的に持っておく薬であり、いきなり使う薬では無いと思います。 また、(2)や(3)を乱用すると、菌F・菌Gといういままで問題にならなかった菌まで 病原性を持ち、また新たな広い範囲の菌を叩く薬が必要になってきてしまいます。

最後に重要なことですが、(1)のペニシリンはもっとも値段が安く、患者さんの負担が少なくてすみます。

(注)例外としては、ペニシリンアレルギーの人はペニシリンが使えません。 また、胃腸が弱い人にはペニシリン以外のほうが良い場合もあります。 また、お年よりや、免疫の弱った人などでは最初から広い範囲をカバーするペニシリン以外の薬が良い場合もあります。 また、ペニシリンだとアレルギーを起こしやすい特殊なウィルス感染の時はペニシリンは適しません。 しかし、そういった症例は実際はかなり限られてきます。

<補足>
最近(2007年 10月) 新しいニューキノロン薬の講演会に行って来ました。 耳鼻咽喉科では副鼻腔炎に耐性菌が増えたので、重症の副鼻腔炎にこの系統のお薬を初めから使うのも、 正しい選択であるという専門の先生の意見がありました。 副鼻腔炎は耳鼻咽喉科では正確に診断でき、いわゆる膿(のう=ウミ)のような鼻汁が確認出来たり、 鼻がきれいでも副鼻腔炎の症状が非常に強くレントゲンで明らかな影が副鼻腔に見られるときは医師の判断でこの系統の薬を使うのも正しいと思います。 しかし、患者さんの「汚い鼻が出ます」といった訴えだけで診断すると、風邪の経過中に見られる、 ただの粘った鼻に対しても乱用される危険があります。 ましては喉が痛くて赤いだけで、扁桃腺に細菌が認められないような状態にニューキノロンが多用されている現状は一向に変わっていません。 ニューキノロン薬は症例によっては非常に有用な薬ですが、その効果を維持するためにも適応は厳密に考えて使用しなければならないと思います。